« ネタバレ無し・未見向け劇場版アイドルマスターの感想とか諸注意 | トップページ | アイマスSSA対策まとめ »

劇場版アイドルマスター感想と考察「アイドルの理想型とは一体何なのか」

「THE IDOLM@STER MOVIE輝きの向こう側へ!」ネタバレ有り感想。
2週間以上書いてるけどまとまりません。途中から箇条書きにした方がいいような気がしてきたけどもうかなり書いてしまったのでそのまま書きっぱなしです。

ざっくりとした感想。

  • 「眠り姫」はエンタメ的には有った方が良いがストーリー的には削って他に回した方が良い二律背反的存在。個人的には今までの劇中劇で一番見たい。眠り姫をアレンジしてBGM2曲作ってるのが上手いなー。
  • 出番少ないと嘆かれているがファッション的には響が一番良かった。チャイナ、民宿到着時の珍しいスカート、伊織宅での髪型など。
  • バックダンサー組は全体的に可愛い。美奈子と百合子だけ出番もう少しなんとかなれば…。
  • 可奈の筋肉痛の歌が可愛い。
  • ラムネ色青春のシーンが実は一番テンション上がった。
  • 律子の「私は分かってるから」感がすごい。完全に正妻ポジション。
  • 伊織が「理想のニコマスMAD」的な格好良さだった。春香と同じで設定を超えてきている。
  • 千早はあんまり目立たなかったけどこれでもいい。ヘイト受けるのもうんざりだし。
  • 赤羽根さんの演技が上手くなってPが落ち着いた感じ出てる。
  • 木戸ちゃんもかなり上手くなった。「キラキラしてないっ!」とか絞りだす感じが良かった。
  • Pが春香と未来について語るシーンが感慨深い。10年先なんて言葉がMADではなく公式からでてくるとは。
  • MUSIC♪はちゃんと見たかった。
  • 控室に入ってくるあずさが普通に喋ってるのに何故か凄い威圧感を感じるのが面白い。
  • 志保が可奈を意外と気に掛けてるっぽい事に気付くと志保がかなり可愛くなる。
  • 雪歩の「もっと頼って欲しい」宣言にグッとくる。やよいももっと先輩風吹かすシーンが欲しい。
  • 事務所に集まる時にみんなが走って来てくれた事、真がすごく嬉しそうな表情なのが見てて嬉しい。答えが出るのを待ちに待っていた感じ。
  • 「一人の『かもしれない』を確かめる方が大事なんですか!?」って言われた時の眉一つ動かさない春香の不動っぷりにしびれる。春香Pじゃないけど今回は春香が主役=リーダーで正解、満足。
  • 可奈が土手で歌いかけて止める曲が「自分REST@RT」なのがヤバイ。「輝いたステージに立てば最高の自分を味わえる」じゃあ立てなかったら…と考えるとすごい残酷な歌詞。
  • 橋の上での告白~アリーナでの「諦めたくないっ!」ですごく可奈贔屓になれる。これゲームのシナリオにならんかな。Pになって励ましたい。
  • 帰りの土手の歩くシーンが爽やかで癒される。伊織とあずさの会話が好き
  • ラ イブは1回め見た時は今ひとつだった。READY!!とかみたいにテンポの早い曲の方がやはりのれる。M@STER PIECE自体曲は良いけどED曲って感じが強すぎると思われ。7th参加者だけど別に再現はいらないというか空間を見せるよりキャラ見せてくれた方が多分いい。2回め見た時はもう少し評価上がった。3DCGは遠目でもすぐ分かる。多分モーションのせい。

感想と言いつつ半分以上解説になってるんですが密度が高すぎて説明しないと、どうすごいか言えないのでそうなっています。パンフや雑誌のインタビューなどはまだ読み切れてないので製作者の意図しない事を勝手に深読みしてるかもしれませんがいつもの事なので。良い方向に解釈できるならした方がみんな幸せになれるんですよ。

100点満点の作品ではないと思う、がこれで十分軽く及第点は突破している。TVシリーズを楽しんでこの劇場版に赤点を付ける人間は読解力が足りていない。製作陣に全く非がないとは言わない。しかしTVシリーズを十分に理解し劇場版をちゃんと読み解くことができるなら答えはちゃんと見出だせるはず。そう言い切れるほど根幹はしっかりできている。
反面、一人の人間が1回見ただけで100%理解するのは難しい作品でもある。シンプルに王道かつ複雑な作品。

見る前、問題点というか疑問なのはグリマス組の使い方だと思っていた。
1.アリーナライブをやる
2.ライブにバックダンサーとしてアイドル候補生を使う
3.リーダーは春香
4.ライブ後Pは渡米が決定している
5.可奈がドロップアウトする
これだけのことが判明していてじゃあ実際に見なきゃ分からないことは何だろう?と。そうするとやはりグリマス組が如何に使われ、どれくらい出番があって、何故可奈は挫折するのか?というのがポイントになります。

グリマス組は簡単に言えば765との比較材料。この辺りはTVシリーズを見ていない人へのほんの僅かな配慮でもあります。765の13人がのほほんと過ごしてきたのか厳しい環境で過ごしてきたのかそれはグリマス組との比較や会話を見れば何となく分かるようになっています。体の小さなやよいですら18歳の美奈子、17歳の奈緒よりもはるかにタフになっています。伊織が志保に話し掛けた時、(少なくとも伊織は)ただの仲良しグループでやってきたのではない覚悟というかオーラが垣間見えます。765の大物感を出す為の材料となっているわけです。
そして同時にTVシリーズを見てきた人に対してはあの1年で765プロが何をやってきたのか思い出してもらう目的も有ります。アイマスではちょくちょく有るダブルミーニング的な作りですね。TVシリーズからもう2年も経っているのでちょっと思い出してもらおうという事なのでしょう。

また今回は「未来」というテーマが強調されているため「過去」を意識してもらう必要があります。千早が歌以外にも目を向けようとしているのを見れば「これは家族との確執を乗り越えた後の千早だな」と理解できる。アイマスは作品ごとにパラレルになるので劇場版が一体アニマス時空におけるいつなのか(あるいは全く違う世界線なのか)というのをある程度確定しておかないと前提が色々狂ってしまうんですね。春香が賞をもらっていたり真がアクション映画に出ていたりするのもTVシリーズの後いい感じのルートを通って劇場版の時空に来ているのを表していると思います。

脚本が細かい所で上手くやっているなぁと思わせる部分がちょこちょこあって、まず全員が事務所に集まった時にそれぞれスケジュール管理が上手くなったという話があって、ここからもうすでにP渡米フラグが仕込まれているんですね。時間管理が上手いってのは要するに「この仕事はどれくらい掛かりそう」ってのが予想できて、それの予想に基づいてスケジュールを無理なく組んでるという事だと思います。延びそうな仕事の後にまた別の仕事を入れてしまうと大変な事になるというような話です。
実はこれ見方によってはかなり大胆な事で、要するにPが居なくても割とやっていけるというゲームの根幹を崩す方向性なわけです。元々アニマスではPの存在感を極力抑えているとはいえ結構諸刃の剣っぽい危ない展開だと思います。しかし成長物語を描くためには一歩踏み出さざるを得なかったんでしょうね。直前インタビューで書かれている通り、成長物語を描けないならわざわざ新作を作る必要がないという信念が現れている。実のところPの渡米は春香達に試練を与える為のご都合で付加された要素なのがラストを見ると分かる。

765とグリマス組の顔合わせもなにげに上手い。今回時間は121分しか無くてその中で13人+7人+P+その他を描かなければいけなくて、一人一人のパーソナルを深く描く時間がない。また画面的にも一気に人が集まりすぎると混乱するのであずさや貴音が遅れてくるという流れになっている。あずさは迷った先で買ったであろう鳥取のおみやげを持っており(合宿は福井県)これで簡潔に方向音痴という設定を描いている。亜美真美に対する「静かでいい」発言とか貴音が食事の時間にちゃっかり居るのも同様。自分は気付かなかったが挨拶の時765は全員ぴったり揃っていてグリマス組はバラバラだったらしい点も両者の練度や絆の違いを明らかにしている演出だ。

合宿初日の練習が終わってここでも765とまだアイドル未満のグリマス組の違いが出る。なんだかんだ言ってやよいや雪歩でもグリマス組よりもはるかにタフでTVシリーズ11話の彼女達より成長していることが伺える。違いが描かれるたびに765に対しては「ああ成長したんだな」と感慨深くなるしグリマス組に対してはこの世界における彼女達の立ち位置が固まっていく。簡単に言うと美希みたいな天才はグリマス組に含まれていないことがはっきりする。

合宿中に伊織が志保に話し掛ける所から伊織の株がどんどん上がっていきます。志保は初期千早と似た性格でとにかく仕事に対してストイックで自分にも他人も厳しい性格です。だから同じような経験を持つ千早が会話するという手もあったのですがここで伊織を持ってくるのも憎い演出です。
伊織が今回目立ったのは言うまでもなく竜宮小町のリーダーとして経験者だからです。ただ竜宮小町は良くても今回のライブのリーダーとしては(結果的に)伊織は向いてないんですよね。水瀬伊織というキャラは765プロの中では表面的に一番性格の悪いキャラです。自己顕示欲が強くて虚栄心が有って傲慢で暴力的で口が悪い。反面年下に大らかで面倒見が良くて負けず嫌いという良い所も持ち合わせていて成長するとめちゃくちゃ格好良くなるキャラでもある。765プロ一欠点の多かった伊織が今回の憎まれ役である志保の相手をするとやっぱり映えるんですよ。すげー成長してるじゃんって。今回の伊織は「負けたくない」とかPが居なくなるのが「さみしい」とか自分気持ちを隠さずに言えるようになっています。実は伊織(と美希)は今回の件に対しての回答を最初から持っている。だからリーダーにしちゃうと話が転がらない。

グリマス組のメンバーチョイスに関してほぼ全ての人が首を傾げたと思うんですが見てると理解できる。ひとつはアイドル候補生として比較対象役をやるので個性が強すぎたり能力が高過ぎるキャラは合わない。そしてもう一つはグリマス組の中でダンスできる組と出来ない組を作る事。
全員ができるor全員ができない、だと意見がすぐどっちかに落ち着いちゃうんですよね。年齢も高くて元々ダンス属性の美奈子や奈緒ができる組に入ってる事や本来運動の苦手な志保ができる組に居ることなんかが設定と知っていると面白い。

可奈に関しては、何故同じような性格でかつミリオンライブ!のメインヒロイン的立場の春日未来でなく矢吹可奈なのかという事について色々理由は有るんだろうけど可奈が「持たざるもの」として描きやすかったからじゃないでしょうか。可奈はゲームにおいてVOCAL属性なのに音痴であり間違いなく歌の能力を持っていない。運動は不得意でもないようだけど器用でも頭が良くもないのでダンスが特別できるということもないだろう。ヴィジュアル的にも美少女タイプじゃないし美希のような規格外のグラマーさも無い。
あとひとつポイントなのが「春香へのあこがれ」という点。原作ではあこがれの対象は千早なんですが、とにかく「持たざるものが持つものへあこがれる」という構図は今回格好のシチュエーションなんですよ。

今回春香は「今の自分は色々なもので出来ている」と言うんですが、仲間がいてPがいて小鳥さんに社長がいてレッスンの先生がいて、そしてファンがいる、そのファン代表が可奈なんです。可奈が時々春香の事を「天海先輩」じゃなくて「春香ちゃん」て呼びそうになるのは可奈がガチで春香の、アイドルのファンだからです。つい最近まで春香ちゃんに憧れるファンの一人に過ぎなかった可奈が急にアイドルの世界に片足突っ込むことになり、まだ慣れていないからです。

今回作品内でもリアルでも色んな人が関わって、色んな事が有って今のアイマスが出来ているということが製作陣の言いたいことの一つなわけでそこにどうやって「ファン」というものを関わらせるかが問題だったと思うのです。そこでアイドル候補兼ファンの可奈という存在はうってつけの存在なのです。ファンの祈りが集まってアイドルが金色に輝くとかできないですから可奈が代表になるのがおさまり良いんですよ。そこを分からない人は「グリマスキャラうぜー」ってなるわけですね。もし可奈を抜くなら全然別の話になってしまうんですよ。

過去が有って今が有ってそして未来が有る。未来ってなんだ、それは過去と今の延長線上だから過去と今が分かればある程度予想ができる。じゃあ過去ってなんだ、それはこの約8年間に起こった事と関わった人でしょう。その中にファン(僕達)が入ってないってのは嘘だろう。じゃあどうにしかしてファンという存在を作品の中に込めないといけない。だから過去から未来を描くという筋書きの中で矢吹可奈の存在は絶対なんですよ。まぁ他に描き方があれば話は別ですが。

過去から未来へというテーマに関しては合宿中仕事で一旦抜けた真のセリフが掛かって来るんですよね。「ずっと合宿できたらいいのに」という言葉はいわゆる「ビューティフル・ドリーマー」的願望でそれは視聴者の願いの一つでもある。しかしそれが叶わないことはP渡米を知っている律子の表情をもって暗示されている。直前インタビューで示されている通りそれは監督も鳥羽PもNOを突きつけている。あのシーンは我々に対する意思表明なのだ。こういう劇中に向かって放たれた言葉が同時にリアル世界の視聴者に向けられた言葉でもあるダブルミーニングなのがこの映画のすごい所ですね。そしてそれがいたる所に有るという密度もね。

可奈の反対側に位置する志保に関して。TVシリーズで団結をやってしまった以上あの役は765内部には任せられないので必然的に外部のグリマス組になるのですがもう一つ理由としてはまだ経験値の無いアイドル候補生にやらせるという意味もあると思います。もし志保がそれなりの成功を収めたアイドルだったら「私はこうしてきた、これで成功してきた」って通ってしまうんですよ。基本志保の言ってる事の方が正論ですし。
でもアイマスでそれはないでしょう、と。だから伊織が志保をけん制するんです、「とりあえずうちのやり方を見てろ」と。志保の意見が今仮に正解だったとしてもそれがどこまで続くか分からないってのを24話の美希を見て知ってるから伊織は「とりあえず一度こっちのやり方を体験してみろ」と志保に言ってるのです。まして志保はまだ候補生でこれからスタートという時にいきなり険しい道に進もうとしている危ない状態です。

で、志保の相手を何故千早や直接春香にさせないのかというとあの二人だと必要以上に志保を止めようとして余計にこじれるからだと思います。伊織は765の中で一番対抗心が強いしプライドも高いから志保の気持ちが一番わかる人物です。「せっかくだから全力を出し切りたい」って立派な言葉に聞こえてその実「自分がどうしたいか」でしかないですよね。ダンスできる組の意見はライブを円滑に行うための意見ではなくて自分の願望というか欲なんです。それを分かってやれるのは自己顕示欲の強い伊織が適任です。24話で痛い目を見た春香や千早には向いていない。

律子がライブに参加しないことに関して、「これまた挑戦するなー」と思いました。今回のテーマ的に言って「Pである律子をなかった事にしない」って意味だと思うんですよ。律子Pの人達的には複雑かもしれないけどアイマス2の世界で描いてしまった以上2準拠のアニマス世界でそれを否定するのは良くない、と。そういう意味でPの渡米は格好の材料で、律子がPの背中を押してあげるっていう構図が「最大級のPとしての律子」だったんじゃないでしょうか。

グリマス組がゴシップ誌で叩かれるくだりは現実世界での叩かれ方を意識してるとしか思えませんね。実際発表から今日まで叩かれ続けてます。制作に関わっているA-1としては辛いでしょうね、劣化コピーだの言われて。このシーンが皮肉や抗議の意味が有るのかどうかはよく分かりません。単に「歴史」として入れているのかもしれない。

後半に入ってから注目すべきポイントはなんと言って志保。問題発生以降何回か志保が片方の腕でもう片方の腕を掴んでいるシーンが有る。無印の千早も似たようなポーズをとっていたがこれは不安の現れと見ていいと思う。原作の設定では志保は演技に特化したアイドルで運動はむしろ苦手な方。また、外見からは分からないと思うがまだやよいと同じ14歳で当然体力作りはできていないと考えるのが自然なキャラ。振付の変更に反対する彼女は実は可奈と同じくダンスに不安を抱えている。そこを根性で何とかしているからこそ百合子達に「出来ないならできるようになるまでやればいい」と言うわけだ。

志保は努力を信じている。だから可奈の事も裏では買っていたのではないかと思う。可奈からのメールが明らかになり大切にしていた春香のサイン入りパンダを「もういらない」との伝言が有ったと聞いた時志保の顔がショックを受けた表情になっていた。春香が可奈との電話の内容を伝えた時も一番最初に顔を曇らせたのは志保だ。志保は、可奈が今回のライブを辞退することはあってもアイドルを辞めることはないと思っていたんじゃないだろうか。ミニライブ後の控室で前向きなことを言ったのはただ一人、可奈だけだった。

可奈も志保も努力を信じている。しかし志保は「仲間」という物を信じていない。そこが二人の決定的な溝となる。個人の努力不足を不確かな「みんなで」埋めようとする行為を志保は理解できなかった。志保に否定された時可奈は初めて「どうしたいか」ではなく「どうするべきか」で考えてしまった。「あこがれ=どうしたいか」を原動力にして動いてきた可奈がそれをやってしまうと折れてしまうのは時間の問題だったのに、その時の可奈には「どうするべきか」しか頼る物が無かったんだと思う。

問題が起きて以降の流れが長すぎるという意見をちょくちょく見るが個人的に言えば逆で短すぎる。可奈が一人で練習をする場面や徐々に沈んでいくシーンがあった方が分かりやすかったと思う。だから可奈が逃げた理由を誤読する人が出てしまったのではないか?入れなかった理由としては24話の春香と同じ描写になってしまうし暗いのを嫌がる人に配慮してあまりしつこく描かない方向で行ったのではないかと推測できる。BD版では追加シーンが欲しい所。

特に後半がTVシリーズの焼き直しだという意見もあるがこれも勘違いだと思う。直前インタビュー等で語られている通り今回はまだ仲間と呼べるほどの関係でない人物たちとの関係が主題の一つ。だからこそ春香は可奈に対して一気に距離を詰めることが出来ない。合宿はたかだか1~2週間程度のものだろうし765プロの仲間と同列に考えるのは無理がある。また、春香が可奈を気遣った理由も「仲間」であるという理由ではないと思う。

ここはキャッチコピーの「アイドルの理想型」という言葉に関係してくると思うのだが、春香は可奈がアイドルに憧れてアイドルを目指しているから助けたのではないだろうか?何故TVシリーズと同じような事をするのかとか、春香と可奈の絆は薄っぺらいとか、何でもっと早く探しに行かないんだとか言う人が居るけど僕に言わせれば全部間違っている。

可奈は千早程付き合いは長くないし仲間と言えるほど言葉も交わしていないし実際の苦楽もそれほど共にしていない。だからこそ春香は踏み込めなかった。でも助ける。
天海春香は最初期のメンバーの中で唯一「アイドルが目的」のキャラクターだ。アイドルに憧れアイドルになった。そして今、矢吹可奈はその春香にあこがれてアイドルになった。ここに「アイドルの縦軸」が生まれている。だから助ける。

もし女性アイドルのファンが男性だけだったら次世代の女性アイドルは職業アイドルだけで春香のような純粋培養のアイドルは絶滅する。アイドルは憧れられる事によって次の世代のアイドルを生んでいく。それこそが「アイドルの理想型」なんではないか。劇場版は春香が「アイドルの縦軸」を認識するお話なのだ。TVシリーズで春香が得た「みんないっしょに」というのは横軸の話だと思う。

春香は「アイドルって簡単に諦められるものではない」と言っている。アイドルに憧れる可奈を見捨てることは自分自身の出発点であるアイドルへのあこがれを汚すことになる。だから他の誰でもない「天海春香の答え」は可奈を救う方向へ向かう。今の自分を構築した全部を大事にしてそれを未来へ持っていく。それが春香の答えなのでそこには「あこがれ」という気持ちが一番輝きを放って存在しているはず。

25話で社長が「彼女達こそアイドルの完成形なのかもしれない」と言う。それに対してPは「まだまだです」と返す。アイドルは「完成」しないのかもしれない。次のあこがれを生むことによって無限に続く、それこそがアイドルの「理想型」でありこの映画が描きたかった物ではないだろうか。

可奈が逃げた理由がくだらないという意見に関しては、はっきり言って絶望すら感じた。「みんなで頑張る」を否定された可奈は一人で練習をしたがまったく上手く行かず、ストレスで太ったのであって、結果もしくはとどめであり主な理由ではない。アイドルを目指す思春期の少女が急激に太ってしまった事のどこがくだらないか。それとも家族の事故死とか難病とかのオチすれば良かったのか。ゲストキャラがいきなりそんな災難に遭ったらそれこそ観客置いてけぼりだろう。努力と心の持ちようでトップアイドルになれる、そんな甘っちょろい世界がアイマスでしょうが。一体今までアイマスの何を見てきたのか疑いたくなる。初見の人が批判したり可奈の描写不足による唐突感の批判ならともかく以前からアイマスを追っている人の単純な批判は完全に的外れ。

志保が何故春香のやり方に折れたのか。アリーナの広さを体験した時テンションの上がっている765プロメンバーと対照的に志保は驚愕の表情だった。それは、アリーナ広さとそれを埋める観客の数に対して個人の努力だけでは到底埋められないものが有る事を知ったから。このシーンBGMを切って無音になる所がよりアリーナの広さを感じさせていて良い。アリーナの広さに対してどうやってキャストがボリュームを出すか、それにはメインキャストのみならずバックダンサーも団結しないといけない。振り付けを変える変えない以前に全員の息が合っていないといけなくて個人で頑張るだけではダメ。結局可奈も志保も間違ってたやり方をしていたという結果。

この映画を一人で全て読み取るのはかなりの難易度なので色んな人の感想を読むと別の視点で読めて参考になりますよ。

劇場版アイドルマスターの何がすごいかっていう話
「見たいように見ることができる」ってのはその通りかもしれません。ただ否定的な見方をした人がそのまま視点を固定してしまうのがね…。

少女達の不安と後悔 -劇場版アイドルマスター輝きの向こう側へ 感想その1
矢吹可奈・北沢志保共にストレス耐性が低い論。

続(劇場版ネタバレ有)
アイマスはホームドラマ。

アイマスと身体性
可奈と貴音の対比、そういう視点が有ったのか。

BGMから見るアイドルマスター劇場版【ネタバレ注意】
そのシーンに使われているBGMの意味を考察。

関連記事:ネタバレ無し・未見向け劇場版アイドルマスターの感想とか諸注意
関連記事:劇場版はなぜミリオンライブ!キャラが出演するのか、というお話

|

« ネタバレ無し・未見向け劇場版アイドルマスターの感想とか諸注意 | トップページ | アイマスSSA対策まとめ »

コメント

劇場版の論評検索で辿り着きました。

ゲーム未プレイ、アニメシリーズも未見という不届き者で
時間潰しのつもりで劇場版を観ましたが、すっかり引き込まれてしまい
本日まで6回程観ています。

自分では言語化できなかった今作の魅力をしっかりと表して頂いており
どうして何度も観てしまうのか、という自分の疑問に明確な答えを頂い
た気がします。

すばらしい論評、ありがとうございました。

投稿: 田所 | 2014/02/20 20:22

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/66195/59035119

この記事へのトラックバック一覧です: 劇場版アイドルマスター感想と考察「アイドルの理想型とは一体何なのか」:

« ネタバレ無し・未見向け劇場版アイドルマスターの感想とか諸注意 | トップページ | アイマスSSA対策まとめ »